先週誕生日だったよね。これベタだけど、と友人からもらった紙袋。お礼を言い、感想を伝えるためにその場で開けようとすると片手で制され、家でラッピングを紐解くように指示された。慌てっぷりを訝しみながらも、言われた通りに帰宅後、リビングで包装を開いていく。
リボンを抜き、ぽすんと床へ転がり落ちたのは手ごろなサイズのクッションだった。表面には大きなハートとやたら派手なYESの文字。裏面には割れたハートとNOという単語がプリントされている。なんだ可愛いじゃん、と胸を撫で下ろし、すぐにハッとした。これ、見覚えあるぞ。
眉をひそめたその瞬間、カバンに入れっぱなしだったスマホが振動し、思わず飛び上がる。ロック画面の一番上に表示された通知は先ほどの友人で「久々に彼氏に会えるんでしょ。楽しんで」というメッセージ。語尾にはハートマークが添えられており、私は彼女の言わんとすることを完全に理解した。このクッションの用途は寝室に置く枕で、とある意思表示に使うものだ。
さて、どうしよう。何が困るかって今日は半年ぶりに、噂の彼氏が泊まりにくるのだ。
結論から言うと、めちゃくちゃうけた。
女の一人暮らしということで、部屋は特段広くない。隠し場所も限られるし、いざ見つかった時それはそれで困る気がする。ならば、友人からもらったという免罪符を利用し、当たり前のように並べておこうと思ったのだ。
クッションに気がついた彼は涙が出るほど笑っていた。笑い上戸になってしまった男からかろうじて聞き取れたいくつかの感想は、まだ使うやついたんだな、どこで売ってんだよ、マジで最高だわ、など。
あくまでジョークグッズとしてではあるもののお気に召したらしく、今も寝転がりながらバレーボールのトスのように放って遊んでいる。
ああ、色気がない。そういうためのものとして生まれたにも関わらず、目的に沿って使えないことを心の中で謝っておく。ごめん。
「いいセンスしてるよな、お前の友達」
また笑いがこみ上げてきたのか、ニヤついた口元で御幸がこちらを見やった。
「はちゃめちゃに喜んでたって伝えておくね」
「頼むわ」
徐に体を起こして、携帯で時間を確認し始める彼。見たい番組でもあるのだろうか。じっと指先に視線を合わせていると、私に改めて向き合い胡散臭く微笑んだ。
「夜はまだ長いし、期待に応えようぜ」
抱えられた例のクッション。表示は言うまでもなく綺麗なハート側。ここにきて突然行われた正しい使い方にめまいを起こす。
「……それはずるくない?」
「何が?」
甘い囁きが耳朶を這い、背筋が痺れる。なあ、シねえ? なんて追い打ち、ずるいよバカ。
返事の代わりに歩み寄って肩口にすり寄れば、簡単に捕らえられ、あっという間に熱い腕の中。引き入れられた口腔で舌を甘噛みされる。隙間から漏れた唾液が顎を伝ってラグに音を立てて落ちていく。御幸は下唇をハムハムと唇の内側で摘まれるのが好きだ。熱烈なお誘いのお礼に、それを返してやるとあえかな吐息が漏れた。
色気がない、と先刻言ったばかりだけれど降参。前言撤回させてほしい。
こうなったら、惚れた弱みも相まって私は常に白旗。ピンクのYESしか言えないんだから。