ダイヤプラス らしくない大人

テーブルの上に置かれた雑誌の表紙と、リビングのラグでごろんと寝そべる男を見比べ、私は「印象詐欺ってこういうことか」ともっともなことを考えた。
話題のバッテリーに聞きたい百のことと銘打たれ、十八ページもの特集が組まれた巻頭。鍛え上げられた胸筋をラフな紺色のワイシャツに包み、こちらへ足を投げ出した写真からは、おそらく本人は意識していないにも関わらずやたらと色香が漂っている。
対談相手である投手のヴィジュアルもなかなかということで、女性人気が抜群に良い若手二人だ。スポーツ選手が表紙を飾るという、そのファッション誌の読者層からすればなかなかに攻めた企画だとは思ったが、ネットニュース曰く売上は上々とのこと。
写真集か、と聞きたくなるほど撮り下ろし満載のページは、サービスカットなのかケーキを頬張るシーンやら、エプロン姿やら、おおよそ野球とは関係のない一面に溢れていた。微妙に口元が笑えていないのは、甘いものが得意でないからだろう。
誌面を眺め、視線を数メートル先に移す。相変わらずよれたスウェット姿でゴロゴロと寝そべっている。身にまとっているのは、以前泊まりに来た時腑抜けた顔で「部屋着忘れた」と抜かしたので、急遽近場の大型スーパーで調達した品だ。なぜかいたく気に入ったらしい。チャコールグレーのTシャツからチラチラと見える腹筋だけ雑誌の中の彼と同じで、違和感に目眩がしそうだった。
「……お腹しまったら?」
「えー」
えー、じゃないんだけど。
体を反転させ、こちらを見やった御幸が「やって」と語尾にハートマークをつけ、わざとらしく微笑んだ。

「おうちロケとか絶対ダメだよ、生態がバレる」
「ないない」
けろっとして、まだ俺ルーキー枠だからとのたまう。そりゃあ年功序列ならそうなるけど、人気枠だったらオフシーズンに取材が来ないとも言えないじゃん。
「あの手が来るのはマジの大御所。寮出てすぐの新人の私生活とか球団も管理しきれてねえし。んな危ねえロケに許可出さねえだろ」
「そこらへん、信用されてないの」
「さあ」
「ふーん」
随分と他人行儀な男だ。今、自分の話をしているって本当に分かっているんだろうか。私の心配もつゆ知らず、ちょいちょいと手招きをするので、誘われるがままラグに腰を下ろす。
「……御幸、やっぱり損してる」
「なんで」
「かっこいいってイメージ持たれすぎて。本当は情けないところもたくさんあるのにね」
「急に貶すじゃん」
「違うよ、提案。萌えキャラとして売り出してもらえれば」
「俺の寝巻き姿の抱き枕とか販売されてもいいわけ」
「マジ?」
「わりとマジで企画会議に出たってさ」
寝そべる顔を覗き込むと、男らしい眉毛がぴくりと動いた。厚い唇がほのかに色づく。髪もぼさぼさだし、目元もしょぼしょぼしているくせに、顔の造詣が良いからかアンニュイな雰囲気。ずるいんだ、こいつは。
「な、チューしよ」
「私、雑誌の表紙みたいな色男とチューしたいんだけど」
「はいはい、残念でした。こっちの俺で勘弁」
肩から滑り落ちた髪の毛に指を絡められ、仕方なく私は頭を下げた。