fan fiction

unmeasured 吊り橋に足を

ぐらり。水平線が大きく歪んだ。これは「ぐらり」どころではなく「ぐにゃり」だ、などと頭の片隅でやけに冷静な声がする。指先が急激に冷えていく。足がうまく動かない。腕も自分のものじゃないみたいに、小刻みに震えて、水をかけない。寒い? いやいや、季…

1 to 2 傾く理由

三月十五日。午前八時。室内に反響するデジタル音を止め、ベッド脇のカーテンを勢いよく開ける。広がる青い空。予報通りの快晴だ。この日のために見繕ったワンピースへ目をやり、ガッツポーズ。普段はスキニーのパンツスタイルが多いけれど、春だし、何より今…

1 to 2 お互い様と言うことで

「……正直、私はすっごくしたい」アルコールが入ったせいだろうか。酒に弱い印象はなかったし、むしろ俺より強いのではとすら思っていたが、肩にかけられた吐息がほんのりと熱い気がした。正面から薄い浴衣越しに体を預けられ、腹筋のあたりで質量のある胸が…

1 to 2 楽しそうで何より

洗面器の中にはてらつく粘性の液体。手元には、それらをたっぷり浸透させた布地。ゆっくり持ち上げると、染み込んだ水分が重力に逆らわず下へ下へと滴っていく。同じく細い指同士を開けば、とろりと音が鳴らないのが不思議なくらいに、たっぷりと時間をかけて…

1 to 2 浅倉南によろしく

「一也の奢り?」自信しかないという面持ちで、ほら俺新婚だし、と宣言した元都のプリンス、現日本のプリンスはひらりと片手を上げて見せた。よくもまあいけしゃあしゃあと。散々稼いでいるくせに、なんて思いつつ、それでいいよと頷く。言うて、鳴相手に奢り…

1 to 2 ストライクの数え方

午前十一時、駅前。数日前に交わした待ち合わせの約束である。久方ぶりのデートである。定期的に電話はしていたものの、直接会えると言うのはやはり嬉しく、俺はこの日を楽しみにしていた。携帯でやりとりを読み返して、口元がうっすら緩んでしまう程度には。…

1 to 2 ステップ・アンド・ステップ

「で、ヤらせてくれた?」身も蓋もない言葉選びに、含んでいたお冷を戻しそうになる。口に手を当て、ごくりと飲み下し、恨めしく質問を投げかけてきた張本人を見つめると、何が楽しいのかケラケラと笑ってみせた。「いや、だってお前二十歳越えて童貞って。な…

1 to 2 ワンワンにも負けそう

「御幸選手、こんばんは」開口一番、やけに機嫌がいいなと思った。あいつが俺に「選手」と呼びかけるのは、飯が美味かった時とか、予想よりもレストランのコスパが良かった時とか、まあそんな感じ。存外分かりやすい。今日の晩飯何食ったんだろ、この様子だと…

ダイヤプラス アンダー

アンダーシャツっていいよね。きっかけは何気ない一言だった。オフでも多少は体を動かさなければ鈍ると、軽めのランメニューとドリルをこなしたばかりの御幸が、そんなもんか、とでも言いたげに自分の顎をなぞる。そりゃあ、着慣れているかつ、見慣れている本…

ダイヤプラス らしくない大人

テーブルの上に置かれた雑誌の表紙と、リビングのラグでごろんと寝そべる男を見比べ、私は「印象詐欺ってこういうことか」ともっともなことを考えた。話題のバッテリーに聞きたい百のことと銘打たれ、十八ページもの特集が組まれた巻頭。鍛え上げられた胸筋を…

ダイヤプラス 約束はいずこ

十数年前の約束だ。プロになって、野球で食っていけるような選手になったら結婚して欲しいと、そんな大それたことを告げ、小指を絡めた。礼ちゃんからスカウトを受けて、薄ぼんやりと自分の将来について考えた始めた時期だった。いつか甲子園に出るんだろう、…

ダイヤプラス 返答クライシス

先週誕生日だったよね。これベタだけど、と友人からもらった紙袋。お礼を言い、感想を伝えるためにその場で開けようとすると片手で制され、家でラッピングを紐解くように指示された。慌てっぷりを訝しみながらも、言われた通りに帰宅後、リビングで包装を開い…