fan fiction

Prayer 後日談 清瀬灰二

*清瀬が風呂からあがると、リビングのソファーでが潰れていた。潰れていたというのはあくまで体勢のこと。おそらくではあるが、「お酒に」などの前段がつくわけではなさそうだ。彼女の酒の強さは折り紙付きで、特に仕事関連の場ともなれば無茶な飲み方は避け…

Prayer 4章間話 柏崎茜

*梅雨前線の機嫌を伺う日々が続いている。毎度夕方以降でタイミング悪く降り出す雨へ、竹青荘の住人たちが夜ジョグを控えてしばらく。日課になりつつあった行動を制限されたことで、入浴後の時間が手持ち無沙汰になった面々は、入れ替わり立ち替わりで王子の…

Prayer 6章③ 田崎源一郎

*盤の上に、パチンと音を立てて碁石が乗る。碁笥の中に利き手を差し入れながら、竹青荘の大家兼、陸上部の監督である田崎源一郎は「ふむ」と低く唸った。右上角ではじまった陣の取り合いが、右側全体に広がり、大規模な戦の様相だ。後手を取っている白番は、…

Prayer 6章② 清瀬灰二

*「ひろ!」都道百五十三号線沿いのフェンスから、奥へと目を凝らす双子が声をあげた。「箱根の予選会は、昭和記念公園に隣接する自衛隊駐屯地からスタートする」清瀬が、木々の境へわずかに覗くコースを指差す。「最初に大きな滑走路と誘導路を二周する。駐…

Prayer 2章間話 勝田秀作

*「あら、美味しそうな瓜ねえ」ダンボールを開いていた八百勝の店主──勝田秀作が振り向くと、常連の婦人が店前のカゴを覗き込んでいた。決して大きな声ではない。あくまで独り言として呟いたものと思われる。しかし、綿毛のようにさわりのよい音は、心地よ…

Prayer 3章間話 坂口洋平

*なんてことはない平日。夕方というには幾分か浅い、年季の入った生垣の切れ目から、帰宅中の小学生が時折覗くような時間帯。竹青荘が誇るクイズ王──キングこと坂口洋平は、石畳に腰掛けながら、玄関先でニラと戯れる女性へ視線を向けていた。アパートまで…

Prayer 5章間話 勝田葉菜子

*「ハナちゃん、できたよー」湯船の中でまぶたを閉じていた葉菜子は、呼びかけに応じて意気揚々と横を見やった。ウェーブのかかった髪を真っ白な泡で覆ったが、毛先を天井に向けて持ち上げている。自重で支えたかったのだろうが、彼女ほど髪が長いとなかなか…

Prayer 6章① 城次郎

*その現場にジョータが一人居合わせたのは全くの偶然だった。「俺でもわかったよ……」日本語でもなく、おそらく英語でもない言語で何かを熱烈にまくし立てられていた葉菜子を駅前で発見したのがつい先刻。適当にお辞儀をして、竹青荘への道を一緒に進み始め…

Prayer 5章間話 わたし

*──呼吸をするのが億劫だ。元とはいえ、陸上選手にあるまじき感情だろう。それでも、わずかな違和感すらかき消えるほど、目の前に広がる景色はうつくしく、瞬きさえ惜しく、ゆるやかに心を惚けさせる。世界を覆い尽くす薄闇へ、密やかに抗う恒星。限られた…