novel

unmeasured 背に熱

もがく華奢な肢体を右手で抱え込む。目まぐるしい水流で、白く泡だつ周囲。得られる情報量の少なさに歯噛みし、呼吸を求めて水面を目指す。しかし、激しい雷雨でこれではどちらが水中か分からない。何とか外気へ顔を出し、ぶつかる雫や鳴り響く雷の音を聞く。…

Triangler 別冊 バニー

ベッドの上に、うさぎが座っていた。正確に言うと、うさぎの耳をつけたが体育座りで小さく丸まっていた。SAIがシャワーに発つ前までは、いつも通りラフなスウェット姿だったはずだ。それがどうしてこんなことに。理由を尋ねようとするも、口からは「な、え…

Triangler 別冊 アルコール

その日。七海SAIは、恋人が酒に酔っている姿をはじめて目にした。この「はじめて」は「」にかかる。関係性が友人であった時からまれに晩酌する機会はあれど、溺れるはおろか、顔色が変わることすら滅多になかったのだ。世の中の女性大半は彼が思う以上に強…

Triangler 別冊 ハマル

まぶた越しに感じる日の気配。直感的に色でたとえれば青になる、朝の風がSAIの頬を撫でた。本来の起床時間まで、幾分か余裕のあることが理解される。薄ぼんやりした頭は、以前龍水に「寝汚い」と数回指摘を受けたことを回想した。たまにはこんな日もあるも…

Triangler 別冊 フレンチキス

……すっごく失礼なこと聞いてもいい?歯切れ悪くが切り出したのは、七海SAIが龍水財閥のIT担当を渋々引き受けることが決まってすぐ。とある午後のことだった。*千空等が月より帰還してしばらく、世界各国を回っていたSAIも、ここ最近はインドア生活…

鬼滅プラス 夜明けにつぐ

人の気配で眼を覚ます。瞼の重さに、嗚呼まだ自分はまどろんでいる最中なのだと、どこか冷静に考えながら、「もしもし」と耳馴染みのある声に起床を促される。正面には、高い天井。視界の右端に、ひらひら舞い踊る蝶の羽織。「おはようございます。二日間眠り…

腐 真手 猫と糸

赤い糸の語源は中国にあるのだという。元は邪気を祓うという意味合いであったとか、小指ではなく足首に巻かれていたとか、糸ではなく縄だったとか。異なる点はいくつかあるものの、誰も見たことはないのに、誰もがそれは赤い紐状の何かだと認知している状況は…

Triangler トライアングラー

*こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル。夏の大三角形をつくるアルファ星のうち、ベガとアルタイルは七夕伝説の織姫、彦星になぞられる。ともに図形の頂点を形つくりながら、一四〇〇光年先にいるデネブは、恋人二人にとって一体どういっ…

Triangler ストラトスフィア

【トロポスフィア】旧現代において、もっとも有名なカウントダウン。それは、アポロ十一号のリフトオフに違いない。現地には百万人の観衆、アメリカ全土だけで二千五百万人のテレビ視聴者、世界各国の数百万人にのぼるラジオ聴衆。その日、世界の二割がメディ…

Triangler 第三宇宙速度

*宇宙船の数百万点にも及ぶパーツを、世界中のエンジニアで手分けして設計する。千空、ゼノよりまず提案されたのは拠点を結ぶインターネットであった。電子ペーパーを用い、オンライン上で共有と設計を並行するためだ。「インターネットをつくる!」と宣言さ…

Triangler グレートアトラクター

*七回目の正直。偵察用人工衛星を格納した無人ロケットが、大気圏を抜けた。これまでの失敗、そのたびの作業、手法のリファインに取り組んできた一同はお祭り騒ぎである。人類史をリセットされてから、はじめて人工物を宇宙に送った記念すべき日だと、以降の…