風が強く吹いている

Prayer 4章③ 坂口洋平

*前回の反省を生かし、喜久井大記録会にはの運転で向かうことになった。素知らぬ顔で助手席に乗り込む清瀬を総出で引きずり下ろし、ナビ係としてユキを突っ込む。清瀬が隣に座っていても、いざという時なんの役にも立ちやしない。東体大記録会への道中で全員…

Prayer 4章② 城次郎

*「──嘘⁈ あいつそんなこと言ったの?」「まじかよ、あいつ!」王子から端的になされた報告について、双子が口腔に白米を含んだままコメントを残す。清瀬が「行儀が悪いぞ」と指摘を入れるが、前段の衝撃で注意は耳に入っていない。現在、食堂の席につい…

Prayer 4章① 平田彰宏

*大学中庭のベンチに腰掛け、生協で購入したパックの牛乳をすする。何をしなくても腹は減るものだ。舌に残る乳独特の膜をうざったく感じながらニコチャンはため息をつく。七十九キロ。昨晩、鶴の湯で乗った体重計の針が示した重量。長距離選手として、トラッ…

Prayer 3章⑤ 蔵原走

*足元に画用紙で敷かれた道があるようだ。一歩を踏み出すごとにじわり絵の具が滲み、大きく広がる。しぶきに足を取られ、厄介で仕方ない。上京してから、この一ヶ月間で出会った人々。そんな彼らの声が取り巻く水滴の中で反響している。痛いくらいに、眩しく…

Prayer 3章④ わたし

*──死ぬかと思った。バンの助手席より命からがら降り立ったは、そのまま地面に膝をついた。わざわざ彼女の家まで迎えに訪れた清瀬にお礼を言い、レンタルバンへ乗り込むまでは順調だったのだ。しかし、走っているうちになぜかセンターラインへ近づいていく…

Prayer 3章③ 杉山高志

*食堂に、八人分の「はあ⁈」がこだました。「だから今日の夕方五時、玄関前に集合だ」その叫びを引き出した張本人は、実に清々しい居住まいである。「今まさに走って来ただろうが」「朝のジョグは肩慣らしだ。今日から夕方の本練習もはじめる。本格始動だ」…

Prayer 3章② 榊浩介

*「おーい! こっち! すごいすごい! はやーい!」多摩川の河川敷で、ピンク色のジャージに身を包んだ少女が跳ねている。堤防の上からその様子を捉えた榊は、スピードを緩めて坂下を覗き込んだ。声の方向に向かって一人の青年が駆けていく。そのフォーム…

Prayer 3章① ムサ・カマラ

*午前六時半。青く広がる空の下、一同が多摩川の河川敷に到着して十数分ほど経過した。「……あれがハイジの女か」皆のタイムを記録するを眺めながら、芝生に寝転んだユキが小さくぼやく。昨晩清瀬がどこかへ出掛けていったが、帰ってきた時の様子から察する…

Prayer 2章③ 勝田葉菜子

*四月に入ったとはいえ早朝の川沿いは冷え込む。河川敷に自転車で乗りつけた少女──勝田葉菜子は、セーラー服越しに腕をさすりながら上流方向へと目をやった。視線の届く範囲にジャージの集団は見当たらない。事前に聞かされていた陸上部員たちは未着のよう…

Prayer 2章② 岩倉雪彦

*「──なあ、まさかハイジに付き合う奴はいないよな?」清瀬の宣言から一夜明け、朝食を取るために食堂へ集まった住人たちへユキは目配せをした。先ほどムサが当番のトイレ掃除へ出て行ってしまったが、タイミングとしては清瀬がニラに餌をやりに行った今し…

Prayer 2章① 蔵原走

*「──いるんだな、神様って」バカを言うな。そんなわけないだろう。誰かが囁いた言葉に、走は寝返りを打ちながらそっと毒づいた。神様なんて、所詮はどうしようもない状況に置かれた昔の人間が、すがるものほしさにつくった何かでしかない。よい人間がひも…

Prayer 1章① わたし

*「秋学期の必修やばいじゃないですか! 遊び溜めしておかないでどうするんですか」キャンパス中庭で、有村が後輩三人に捕まったのは今日の昼時である。今から喜久井祭に向けて学生委員会の会合があるという彼女らは、研究室帰りであったをいとも簡単に確保…