風が強く吹いている

Prayer 1章間話 玉川聡

*──……まずったなあ。寛政大学政治経済学部二年──玉川聡は盛大にため息をついた。事の発端は、バイト先の友人である北沢すずとの約束にある。そもそも彼女との出会いは、彼が一年の夏に始めたバイト、新宿駅東口の肉バルホール。皿単価がそこそこ高いこ…

Prayer 5章間話 清瀬灰二

*目を開けると、木目の天井が飛び込んできた。とりあえず上半身を起こすべし。すっかり習慣になった仕草で布団から這い出る。ペンションの二階。竹青荘の住人たち、八百勝の主人、左官屋がすし詰めになって眠りを貪っている。カーテンで仕切られた向こうは女…

Prayer 4章間話 蔵原走

*焼けた鉄板が、火のつけられたままのコンロ上でぐらぐらと揺れる。次第にバランスを崩し、手前側へ大きく崩れる。目の前を通り過ぎた影が、それを手掴む。堪えきれないわずかな悲鳴があがる。重力によって台所の床に叩きつけられたフライパンが、ごま油の香…

Prayer 1章間話 北沢すず

*北沢すずがが五十七号館のエントランスを出ると、中庭のベンチに見慣れた姿があった。一七〇センチ近い身長にすらりとしたスタイル、真っ白な肌は、女性の少ない理工キャンパスで否応なしに目立つ。所属学科の先輩──有村その人である。すずが高校時代に懇…

Prayer 1章間話 榎本茉莉奈

*「……何だそりゃ」茉莉奈は頬杖をつきながら、目の前でスパゲッティを咀嚼する友人を見つめた。場所は西喜久井キャンパス周辺。腰を据えて話がしたい時、必ずと言ってよいほど使用する二人の定番イタリアンである。大学から近く、学生価格にしては店内が洒…

Prayer 5章⑤ 清瀬灰二

 *一度崩れたものは、簡単にもとへは戻らない──清瀬灰二は知っている。どんなにもどかしくても、辛くても。焦らず地道に修正していくしかない。ゴールの見えない、果てしない道のり。何度挫けそうになったか、その度に何度歯を食いしばったか。…

Prayer 5章④ 蔵原走

*早朝──まだ眠い雰囲気の中、湖畔周りをジョギングしながら清瀬は皆へと言い聞かせる。「空気が綺麗だ──呼吸をするのも嬉しくなる。そうは思わないか? 風を感じろ。リズムをキープ。これも立派なトレーニングだ」きつい本練習をこなしていくうちに、設…

Prayer 5章③ 平田彰宏

*東体大の学生とこのまま今後もかち合うのは得策でないと判断した清瀬は、午後の練習を終えてからバンに乗り込み、帰路に着く前のと二人で周辺探索に出かけた。その前段、どちらが運転するか決めるじゃんけんの白熱具合はなかなかで、住人たちも固唾を飲んで…

Prayer 5章② 榊浩介

*──お前なんかより、俺はずっと箱根を走りたい。チームに対して思い入れなんかないくせに。自分の力をただ誇示したいだけのくせに。運よく天才でよかったな。どこにも属することなく、迷惑をかけることなく、一生一人で走っていればいい。もしくは、ぬるま…

Prayer 5章① 城太郎

*「なんで山なんか選んだ!」「なんでも! 商店街のバ、バッティングセンターの岡井さんが、別荘を貸してもいいって! ハイジさんに!」ニコチャンの悲鳴に、舌を噛みそうになりながら神童が答える。ただでさえ危なっかしい清瀬の運転に、自然の凹凸まで加…

Prayer 4章⑤ 岩倉雪彦

*六月上旬──とある週末。鶴の湯のモダンな浴室にはいつものように熱気がこもっていた。異なるのは、その熱がアフリカのサンバを思わせる陽気さを伴い、蛇口から継ぎ足される湯の跳ねる音ですら、楽しげに響いていること。それもそのはず。本日行われた喜久…

Prayer 4章④ 柏崎茜

*結局、皆が布団に入ったのは時計の針が午前一時を回った頃であった。が、いつものルーティンをこなすべく、六時前には清瀬を除く全員が竹青荘前に屯する。その中にはの姿もある。葉菜子の学校行事が続くため、ここ数日朝練にも付き合ってくれているのだ。慣…